「食品の品質管理は人気がない」「やめておけ」という声をネット上で見かけることがあります。
私は、加工用食品や食品添加物を製造する会社で、品質管理・品質保証の仕事を20年続けています。
この記事では実際の経験をもとに、食品の品質管理の仕事が「本当にやめておけ」なのかを解説します。

食品の品質管理の主な仕事内容
食品の検査と分析
製造された製品が安全で適正かを確認するのが品質管理部門の役割です。
合格した製品だけが世の中に出荷されます。
検査の種類は大きく3つ。
- 理化学検査:水分やpHなど成分を分析(例:水分計、pH計、HPLCなど)
- 細菌検査:食品の衛生状態を確認(例:一般生菌数、大腸菌群など)
- 官能検査:味や香りを実際に評価
工場内の衛生管理
検査室だけでなく、工場の現場に入ることもあります。
- 作業台や機械の拭き取り検査
- 定期巡回による改善活動
マニュアルやルール作成・チェック
- FSSC22000やISO9000といったマネジメントシステムの構築・維持
- 衛生管理や製造マニュアルの作成と遵守状況の確認
クレームの原因調査
異物混入や規定量不足などがあれば、原因調査と対策を行います。
規格書の作成と表示の確認
規格書作成:原材料、アレルギー情報、内容量などをまとめる
表示確認:パッケージの原材料表示や賞味期限のチェック
食品の品質管理に就職転職がやめとけ言われる理由
1.厳しい労働環境・高ストレス
食品工場は土日も稼働する場合があり、出荷前検査などで休日出勤が必要になることも。
また、クレーム対応や社内調整のストレスも大きい仕事です。

2.低賃金?
大手転職サイトに、国税庁が発表した「令和4年分 民間給与実態統計調査」を元に食品メーカーや業界を含む製造業の平均年収の記載がありました。
「食品業界は給料が低い」とよく言われます。
しかし実際は、国税庁の調査によると製造業の平均年収は約501万円で、全国平均(458万円)を上回っています。必ずしも「低賃金」とは限りません。
業種 | 平均年収 | 備考 |
---|---|---|
製造業(全体) | 約501万円 | 全国平均(458万円)を上回る |
全国平均 | 約458万円 | 国税庁データより |

3.専門知識の必要性
キャリア採用やマネジメントを行う立場の転職であれば、食品化学、分析化学、微生物学などの専門知識が必要とされます。
食品の検査業務には、幅広い知識を駆使するため、理系の大学院卒や大卒の知識は欲しいところです。マネジメントをする立場となれば、社内外に業務の説明を行う機会があるためです。
契約社員や派遣社員の立場で業務に就くのであれば、高校卒業程度の化学の知識があることが望ましいです。
そうすれば検査では分析機器や試薬を扱うことが多いため、入社後に拒否感が無く働けるでしょう。
どのような立場で就職転職しても、入社後は継続的な学習が求められますので専門性を身に付ける覚悟が必要です。

4.キャリアパスの限定
品質管理は「営業」「製造」「研究」に比べて花形ではないため、昇進ルートが限定される会社もあります。
食品の品質管理のメリット
しかし、実際には以下のようなメリットもあります。
安定した雇用
食品産業は景気の影響を受けにくく、需要が安定しています。
これは、食事は人々の生活において基本的に必要なものであり、景気が良くても悪くても食べ物の需要は一定であるためです。
専門知識の獲得
食品に関する専門的な知識やスキルを身につけることができます。
機器分析、食品化学、有機化学、微生物学、幅広い知識を学べることができます。
また、検査スキルは、多くの企業に共通するものです。もしあなたが転職を考えるならば、次の転職先に得られた専門知識をアピールできるかもしれません。

社会貢献
食の安全を守る重要な役割を担うことができます。
メリットとデメリットを整理
「自分に合うか」を判断するための表です。
メリット | デメリット |
---|---|
雇用が安定している | 忙しい時期は残業が増える |
専門知識が身につく | 継続的な勉強が必要 |
社会貢献度が高い | クレーム対応のストレス |
転職時に専門性をアピール可能 | 昇進ルートが限られることも |
ふじQの職場
20代は理化学・微生物検査を担当。
その後、品質保証部門を経て、現在はマネジメントとして品質管理部門を統括しています。
日々の検査は繰り返しに見えますが、分析機器は進化し続けています。効率化や改善活動に取り組みながら、若手や派遣社員の育成にも注力しています。
また、最近はメーカー主催の無料オンラインセミナーなど、学び直しの機会も豊富。未経験からでも知識を身につけられる環境があります。
・無料オンラインセミナーを実施している分析機器メーカー
京都電子工業株式会社
HORIBA
「やめとけ」に対する結論
食品の品質管理は確かにストレスが大きく、キャリアの幅も狭い場合があります。
しかし、安定した雇用や専門スキルの習得、社会貢献といった魅力も多い仕事です。
「やめとけ」という意見は一面的であり、最終的には
- あなたの適性や興味
- 具体的な企業の労働環境
を踏まえて判断すべきでしょう。
食品の品質管理は確かにストレスやキャリアの幅の課題があります。
しかし、安定した雇用や専門スキル習得、社会貢献という大きな魅力も。
「やめとけ」という意見は一面的であり、最終的にはあなたの適性や働く環境次第です。